ギラギラとした夏の陽ざしが、ふっと和らぎ、
風の温度が変わるときがある。
あぁ、夏が終わる。
そんな日は、行ってしまう夏を想い、少しさみしくなるけれど
待ちわびた葡萄の匂いを、嬉しく思いだすときでも、ある。
鳥坂と書いて、とっさか、と読む土地で作る葡萄は
ひと房あるだけで部屋中にその匂いが充満するほど香り高く、
野性味の強い甘さをもち、力強い味が口中に広がる葡萄である。
葡萄の種類は翡翠色が美しいナイアガラと
黒味が強いヴァイオレット色のスチューベン。
私のお気に入りはナイアガラ。
そんな葡萄を作っている人は、どんどん少なくなり、
今や数えるほどになってしまったけれど
そんな中でも精力的に葡萄づくりをしてくれているのが
高橋さんちのみよちゃん。
線路わきの作業小屋で、
朝は9時から、夕方5時まで直売をも商っていて
店先に立つと、甘い香りに一瞬クラリとする。
今日も待ち人が3人。
丁寧に選別して箱に詰めていく美代ちゃんの手元をじっと見て
「1キロを3箱ね」と注文しては出来上がりを待っている。
ケータイ電話はあるけれど、作業に夢中になっていて出ないことが多い。
昨日、ふと付けたテレビで、葡萄の特集番組をやっていた。
何種類もの葡萄を掛け合わせ、何年も育て、出来上がった葡萄を
またいくつもの手順をかけて、より甘く、美しい葡萄を
作っていく人々と、その工程を追った番組だった。
そして、美しい色を出すために、
昼夜光りを当てられる機械を開発した、とのことだった。
一晩中光を浴びたその葡萄は、確かに美しく、大粒で、宝石のようだった。
スゴイでしょ、オイシソウでしょ、と笑う人たちと
試食して、わーオイシイ、と言っているキャスターたち。
大きいひと房が3000円くらいだという。
線路脇でみよちゃんは、
今年も何とか美味しいのができましたわ、
また女将さんところに行くのが楽しみで、今頑張って働くんです。
といって、ひまわりのように笑った。
みよちゃんの鳥坂ぶどう、今日は1kg1000円。